2025.06.23
AI採用の光と影
昨今、生成AIの進化は目覚ましく、私たちの業務でも欠かせない場面が増えてきたのではないでしょうか。2024年の総務省の調査では業務で生成AIを使用していると回答した日本企業は46.8%となっており、2社に1社は活用している状況のようです。(ちなみにアメリカ、中国、ドイツでは90%程度が利用しており、海外から見るとまだまだ浸透しているとは言い切れないようです。)
特に人手不足が深刻化する我が国において、採用活動におけるAI活用は、もはや無視できない潮流と言えるでしょう。ダイレクトリクルーティングではAI判定で候補者のピックアップからスカウト送信までできるサービスやAI面接官も登場しています。このようなAIサービスがさらに求められていくものと予想されます。
一方で、どこまでAIの判断に頼るのかという点も議論の対象になるのではないのでしょうか。ここで想起されるのが、ロボット工学で知られる「不気味の谷」の概念です。これは、東京工業大学名誉教授の森政弘氏が1970年に提唱したもので、ロボットの外見や挙動が人間に近づくほど親近感が増すものの、ある点を超えると急激に不気味さや嫌悪感を抱かせるようになる、という現象を指します。
採用におけるAIにも、この「不気味の谷」が潜んでいるのではないでしょうか。例えば、AI面接官が人間と見紛うほど自然な対話を実現したとします。しかし、その応答があまりに完璧で、感情の機微を模倣しすぎると、候補者はかえって冷たさや人間味の欠如を感じ、不信感を抱くかもしれません。表面的な流暢さの裏にある「非人間性」が、不気味さとして現れるのです。
さらに深刻なのは、AIによる評価のプロセスです。AIは膨大なデータから学習し、客観的な基準に基づいて候補者を評価するとされています。しかし、そのアルゴリズムがブラックボックス化している場合、なぜ特定の候補者が選ばれ、別の候補者が落とされたのか、その理由を人間が完全に理解することは困難です。もし、その判断基準に偏りが含まれていたり、あるいは企業の求める「何か」――それは時に、数値化できない熱意や、組織文化との化学反応かもしれません――を見落としていたりしたらどうでしょう。効率化の名の下に、画一的な人材ばかりが集まり、組織の多様性やイノベーションの芽を摘んでしまう危険性はないでしょうか。
AIは確かに強力なツールです。データに基づいた客観的な情報を提供し、採用担当者の負担を軽減してくれます。しかし、それはあくまで判断材料の一つに過ぎません。候補者の持つ独自の個性、隠れたポテンシャル、そして企業文化との適合性といった、数値やデータだけでは測りきれない要素を見抜くには、やはり人間の多角的な視点、経験、そして直感が不可欠です。
そこで介在価値を発揮するのがヘッドハンターだと考えます。もちろんテクノロジーは活用しますが、AIが拾いきれない候補者の個性や熱意など、人間の視点を加えながら優秀な候補者を見つけ出し、企業の事業成長を支援する。まさにAI時代に求められる人間ならではの専門性と言えるでしょう。そのような価値のあるサービスを提供できるように日々精進していきたいと思います。