Headhunting Topics

2025.06.23

投資家は「人」を見ている。企業価値を高める“攻めの”人的資本情報開示とは?

「人的資本の情報開示、義務化されたから仕方なく対応している」

「正直、何を開示すれば投資家から評価されるのか分からない」

もし貴社の経営陣がこのように感じているなら、それは非常にもったいない状況かもしれません。

人的資本の情報開示は、単なる事務作業やコストではありません。これは、投資家との対話を深め、企業価値を飛躍的に高める可能性を秘めた「攻めのIR戦略」なのです。

本コラムでは、上場企業およびIPOを目指す企業の経営層様に向けて、なぜ今、投資家が「人」に注目するのかを解き明かし、守りの開示から一歩進んだ「攻めの情報開示」で企業価値を最大化する具体的な方法を、ヘッドハンティングの最前線に立つプロの視点から解説します。

なぜ今、投資家は「財務諸表」と同じくらい「人」を見るのか?

背景にあるのは、ESG投資(環境・社会・ガバナンス)の世界的な潮流です。

かつて企業の価値は、売上や利益といった「財務情報」で測られるのが常識でした。しかし、イノベーションの源泉が設備や工場といった有形資産から、アイデアやノウハウといった無形資産へ移行した現代において、その最大の担い手である「人材=人的資本」こそが、企業の持続的な成長を左右すると、投資家は気づき始めています。

  • 企業の成長性: 革新的なサービスを生み出す人材はいるか?
  • リスク耐性: 多様な人材が変化に対応できる組織か?
  • 持続可能性: 次世代のリーダーは育っているか?

これらはもはや、財務諸表を眺めているだけでは見えてきません。だからこそ、投資家は企業の「人」に対する哲学や戦略を、IR情報から必死に読み解こうとしているのです。

その開示、ただの”アリバイ作り”になっていませんか?「守り」と「攻め」の決定的違い

2023年3月期決算から、有価証券報告書における人的資本の開示が義務化されました。多くの企業が「女性管理職比率」「男性の育休取得率」「男女間の賃金格差」などを開示しています。

しかし、これらの数値をただ掲載するだけの「守りの開示」では、投資家の心には響きません。他社と横並びの印象を与えるだけで、むしろ「戦略なき開示」と見なされるリスクすらあります。

企業価値を高める「攻めの開示」とは、以下の3つの要素を伴うものです。

  1. ストーリー(KGIとの連動性): なぜその指標を重要視するのか?自社の経営戦略(KGI)と人材戦略がどう結びついているのかを、一貫したストーリーで語る。
  2. 独自性(KPIの具体性): 義務化された項目に加え、自社の独自性を示すKPI(重要業績評価指標)を開示する。例えば、事業戦略上エンジニアの確保が最重要なら「エンジニアの定着率」や「リスキリング投資時間」などが強力な指標になります。
  3. 具体性(アクションプラン): 設定したKPIの目標値は何か。その目標達成のために、どのような具体的な施策を実行しているのかまでを示す。

「攻めの開示」とは、単なる数値報告ではなく、「我が社は、このような人材戦略によって未来の企業価値を創造します」という、投資家に対する力強い約束なのです。

【具体例】投資家を惹きつける「攻めの開示」3つの視点

では、具体的にどのような情報を、どう見せればよいのでしょうか。重要な3つの視点と開示の切り口をご紹介します。

1. 多様性(Diversity)― イノベーションの土壌を示す

第一に「多様性」です。女性管理職比率や外国人管理職比率、中途採用比率といった指標は、組織の硬直化を防ぎ、変化への対応力を示す重要なバロメーターとなります。

しかし、ただ数値を並べるだけでは不十分です。「攻めの開示」では、なぜ自社の成長戦略に多様性が必要不可欠なのか、その哲学を語ることが求められます。「多様な視点のぶつかり合いこそがイノベーションを加速させる」といった経営トップの明確なメッセージと共に示すことで、無機質な数字は血の通ったストーリーへと昇華し、投資家に深く響きます。

2. 育成(Development)― 未来への投資を示す

第二の視点は「育成」です。従業員一人あたりの研修時間や費用、リーダーシップ研修の対象者数、専門スキル習得のためのリスキリングの取り組みなどがこれにあたります。これらは未来の企業価値を創造するための、極めて重要な先行投資です。

ここで重要なのは、どのような人材を育て、それがどのように事業成長に貢献するのかを具体的に示すこと。「5年後を見据え、次世代リーダー候補を〇名育成する」「DX戦略の要となるデータサイエンティストを、〇〇時間の研修プログラムを通じて育成する」など、経営計画と連動した目標と実績を開示することで、人材育成が場当たり的なものではなく、戦略的に行われていることの強力な証明となります。

3. エンゲージメント(Engagement)― 資本の価値を最大化する仕組みを示す

最後の視点は「エンゲージメント」です。従業員エンゲージメントスコアや離職率(特に若手や中核人材)、健康経営に関する取り組みなどは、集まった人的資本の価値を最大限に引き出せているかを示す指標です。

「攻めの開示」においては、スコアや離職率といった結果だけでなく、その背景にあるプロセスを開示することが鍵となります。例えば、1on1ミーティングの実施率や、サーベイで挙がった課題に対する具体的な改善アクションなどです。たとえネガティブな数値(例:一時的に離職率が上昇)があったとしても、それを真摯に受け止め、改善策を講じている姿勢を示すことは、むしろ組織の透明性と信頼性を高め、投資家からの評価に繋がります。

重要なのは、これらの指標をバラバラに開示するのではなく、「多様な人材を惹きつけ(多様性)、成長を支援し(育成)、最大限に活躍してもらう(エンゲージメント)ことで、企業価値を高める」という一貫したストーリーとして紡ぐことです。

「攻めの開示」がもたらす、採用と経営への3つの絶大なメリット

戦略的な人的資本情報開示は、IR活動の枠を超え、経営全体に好循環をもたらします。

  1. 企業価値・株価への好影響

ESG評価機関からのスコアが向上し、ESGファンドからの資金流入が期待できます。これは資金調達コストの低減や株価の安定に直結します。

  1. 採用競争力の劇的な強化

「人を大切にし、成長させてくれる会社だ」というメッセージが、企業のウェブサイトや求人広告よりも雄弁に、優秀な人材へと届きます。特に、自身のキャリアに明確なビジョンを持つ経営幹部候補や専門人材ほど、企業のIR情報を読み込み、その本気度を見極めています。「攻めの開示」は、最高の採用ブランディングとなるのです。

  1. 社内の意識変革(インナーブランディング)

自社が「人」をいかに大切にしているかが従業員に伝わることで、エンゲージメントやロイヤリティが向上します。「自分たちの成長が会社の価値になる」という意識が芽生え、組織全体の活性化に繋がります。

まとめ:情報開示を、最強の経営ツールへ

人的資本の情報開示は、もはや避けては通れない経営課題です。しかし、それを「義務」と捉えるか、「好機」と捉えるかで、5年後、10年後の企業価値は大きく変わるでしょう。

ぜひ、貴社の情報開示が「守り」になっていないか、今一度見直してみてください。そして、経営戦略と連動した「攻めの開示」へと進化させてください。それは、投資家だけでなく、未来の優秀な仲間、そして今いる従業員に対する、最もパワフルなメッセージとなるはずです。

自社の人材戦略をどう描き、いかに魅力的に社外へ発信していくべきか。経営の根幹を成す人材獲得と組織戦略にお悩みの方は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。貴社の未来を共に創るパートナーとして、最適なソリューションをご提案します。

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